大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(ワ)11958号 判決 1968年6月07日

原告 脇坂次一

右訴訟代理人弁護士 奥田実

被告 渡綿実業株式会社

右代表者代表取締役 渡辺仁三郎

右訴訟代理人弁護士 大崎孝止

主文

一、原告は被告に対し、別紙目録(一)記載の土地について別紙目録(二)記載の木造建物所有を目的とする地上権を有することを確認する。

二、前項地上権の存統期間は昭和二九年五月一日から三〇年間、地代は次のとおり定める。

昭和三〇年九月一三日 以降同三三年三月三一日迄 一ヶ月金七六八円同三三年四月一日 以降同三六年三月三一日迄 一ヶ月金一、〇二三円同三六年四月一日 以降同三九年三月三一日迄 一ヶ月金一、三三〇円同三九年四月一日 以降同四一年三月三一日迄 一ヶ月金一、七三九円同四一年四月一日 以降同四三年三月一三日迄 一ヶ月金二、二五〇円

三、被告は原告に対し別紙目録記載(一)の土地につき木造建物所有目的、期間昭和二九年五月一日より満三〇年とする地上権の設定登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

(原告)

1、原告は被告に対し別紙目録(一)記載の土地について別紙第二目録記載の木造建物所有を目的とする地上権を有することを確認する。

2、前項の地上権の存続期間は昭和五九年四月三〇日まで、地代は次のとおりと定める。

昭和三〇年九月一日以降同三二年一二月末日迄 一ヶ月金五二七円

同三三年一月一日以降同三五年一二月末日迄 一ヶ月金五八三円

同三六年一月一日以降同三八年一二月末日迄 一ヶ月金七〇〇円

同三九年一月一日以降 一ヶ月金八四〇円

3、被告は原告に対し別紙目録(一)記載の土地につき前記第1項記載の目的、期間は昭和二九年五月一日より満三〇年とする地上権設定登記手続をせよ。

4、訴訟費用は被告の負担する。

(被告)

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求原因

1、別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)およびその上に存する別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)は、いずれも竹内新太郎の所有していたものであるところ、右竹内は昭和二五年五月二日本件建物に常盤無尽株式会社に対し債権限度額九〇万円の根抵当権を設定し、その後本件土地および建物は、同二五年九月二五日山口寅治に所有権が移転し、さらに同二六年一月三〇日渡辺実業株式会社(同二七年五月二五日被告渡綿実業株式会社と商号を変更。)に所有権が移転した。

2、昭和二七年七月一七日株式会社常盤相互銀行より本件建物につき前記根抵当権に基き競売の申立がなされ、東京地方裁判所昭和二七年(ケ)第四二四号建物競売事件として手続が進められた結果、同二八年一一月二〇日競落許可決定により亀山正男がこれを競落し、同二九年五月一日右競落代金の支払を済ませ、同年同月一九日所有権取得登記をした。

よって、右亀山は本件建物の所有権を取得すると同時に、その敷地である本件土地につき建物所有を目的とする法定地上権を有するに至った。

原告は同三〇年九月一三日本件建物を右亀山より買取るとともに右法定地上権の譲渡をうけ、本件建物については同日所有権移転登記を済ませた。

3、しかるに、被告は原告の本件土地に対する地上権を争うので、原告は被告に対し、右地上権およびその存続期間は前記亀山が本件建物につき所有権取得登記をした昭和二九年五月一九日から三〇年後の同五九年五月一八日迄であることの確認を求め、地代を請求の趣旨記載の如く定めて貰うべく、加えて、被告に対し前内容の地上権設定登記手続をすることを求める。

三、請求原因に対する答弁

請求原因第一項の事実は認める。

同第二項中、原告主張の各登記のなされていることは認めるが、その他の事実は否認する。

四、抗弁

1、前記根抵当権の対象であり浴場建物であった旧建物は競落代金の支払前である昭和二七年一〇月一〇日火災により殆んど全焼し、浴場としての効用を喪失したので、旧建物は法律上は滅失したというべく、したがって前記根抵当権は目的物の滅失により消滅した。

右火災後に築造された本件建物についてされた競落は無効であり、亀山正男は本件建物の所有権を取得しえず、本件土地に地上権を得るいわれはない。

2、仮りにしからずとしても前記株式会社常盤相互銀行は本件建物の火災によりその加入していた火災保険会社より保険金を受領し、これにより抵当債権は、競落代金の支払前に消滅し、したがってこれを担保すべき根抵当権も消滅したのであるから亀山正男は本件建物の所有権を取得しえず、従って本件土地に対する地上権を取得することもできない。

五、抗弁に対する答弁

抗弁第一項の事実中被告主張の日時に、根抵当権の対象であった浴場建物に火災が発生したことは認めるが、同項中のその余の事実および抗弁第二項の事実は否認する。

六、証拠≪省略≫

理由

一、本件土地およびその上に存する本件建物は、昭和二五年五月二日当時、いずれも竹内新太郎の所有していたものであること、竹内は、右同日、本件建物に常盤無尽株式会社に対し債権限度額九〇万円の根抵当権を設定したこと、本件土地および建物所有権は同二五年九月二五日山口寅治に、同二六年一月三〇日渡辺実業株式会社(同二七年五月二五日被告渡綿実業株式会社と商号変更。)にそれぞれ移転されたことは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を合せれば、昭和二七年七月一七日本件建物につき、株式会社常盤相互銀行より前記根抵当権に基き競売の申立がなされ(東京地方裁判所昭和二七年(ケ)第四二四号事件)、同二八年一一月二〇日競落許可決定により亀山正男がこれを競落し、同人は同二九年五月一日右競落代金の支払を済ませたことが認められる。

三、抗弁につき次のとおり判断する。

1、前記根抵当権の対象であった浴場建物につき、競売手続の終了前である昭和二七年一〇月一〇日、火災が発生したことは当事者間に争いがない。

被告は右火災により右建物は殆んど全焼しその浴場としての効用を喪失し、その後に築造された本件建物につきなされた競落は無効であると抗争する。

≪証拠省略≫中には、右建物は七分どおり焼失した旨の記載があるが、これは原告本人尋問の結果に照すとそのままには信用できず、≪証拠省略≫には競売価格鑑定人の調査結果として、右建物は脱衣場の一部を残して他は焼失した旨の記載があるが、右記載は鑑定人の伝聞によることが他の記載によって明らかであり、右伝聞の信憑性については何らの立証もないから採用できない。

≪証拠省略≫によっても、右建物の被災が半焼程度であることは認められるが、それ以上に、被告主張のごとく殆んど全焼し浴場としての効用を失ったと認めうる証拠はない。

かえって、≪証拠省略≫によれば、屋根や周壁の脱落は脱衣場を除く相当な部分に及んだにしても、建物の構造上基礎をなす柱、梁は燻焼した部分はあるが崩れたところはなく、また、浴場としての機能上重要な釜場、浴槽、脱衣場は残され、建物保存のためには改修によって充分であったことが認められる。

被告の、旧建物滅失、したがって競売無効との主張は採用できない。

2、被告は、また保険金受領により常盤無尽の抵当権は消滅したと抗争するが、この主張については何らの立証がない。

四、してみると前記第一項及び第二項の事実及び民法三八八条により、亀山正男は、その競落した本件木造建物所有のために、競落代金の支払いをした昭和二九年五月一日、本件土地につき地上権の設定を受けたとみなされ、原告は右亀山より、≪証拠省略≫によると、昭和三〇年九月一三日、本件建物所有権及び亀山取得の前記地上権を譲り受けたことが認められる、さらに原告が同日付で本件建物の所有権移転登記手続を了したことは、当事者間に争いがない。

被告が原告の右地上権取得を争っていることは弁論の全趣旨により明らかであるから、原告の右確認の請求は理由がある。

五、次に、本件地上権の存続期間および地代の点については、次のように判断する。

1  (存続期間) いわゆる法定地上権設定には当事者間の設定行為はなく、存続期間の定めをしない場合に当るから、民法二六八条二項に従い、当事者の請求により二〇年以上五〇年以下の範囲内において地上物件の種類および状況を考慮し裁判所がこれを定めるものであるところ、本件地上権は堅固建物に属しない木造建物の所有を目的とするものであるから借地法に定められた借地権の存続期間によるのを相当とし、同法二条一項により三〇年とするのが相当である。そして、この期間は、法定地上権の成立時期から起算されるから、競落代金全額が支払われた昭和二九年五月一日より三〇年間ということとなる。

2  (地代) 地上権の地代は建物の構造、使用目的、地上権の存続期間、土地の所在、形状を加味した土地価格、公租公課、近隣地代との比較、地上権設定に至った当事者間の事情等を斟酌して、定めるべきものであるが、本件地上権は、民法三八八条の規定により設立されたいわゆる法定地上権であるから契約による地上権の設定の場合に通常みられる権利金等の金銭の授受がないことは考慮せらるべきであろう。

本件地上権は本件建物所有を目的とするものであり本件建物は浴場営業のためのものであること弁論の全趣旨により明らかであるから地代家賃統制令の適用はない。

そして、前述した当裁判所の考慮を加味しても、鑑定人石川市太郎の鑑定結果は極めて妥当と認められるから、これを採用し、原告が本件建物所有権を取得した昭和三〇年九月一三日から同三三年三月三一日までは一ヶ月金七六八円、同三三年四月一日から同三六年三月三一日までは一ヶ月金一、〇二三円、同三六年四月一日から同三九年三月三一日までは一ヶ月金一、三三〇円、同三九年四月一日から同四一年三月三一日までは一ヶ月金一、七三九円、同四一年四月一日から本件口頭弁論終結日である同四三年三月一三日までは一ヶ月金二、二五〇円と定める。

右に定めた額は、原告主張の額よりも多いのであるけれども、民法三八八条但書に基ずく地代決定の請求は、創設的な裁判であるから、原告の地代額の主張は事情を述べるものに過ぎず、請求の一部棄却という観念は容れる余地がない。

また原告は、昭和三〇年九月以降の地代の確定を求め、その終期を明らかにしていないけれども、その趣旨とするところは、右同日から本件口頭弁論終結日までの地代の確定を求めるということであると解せられるのである。

六、最後に登記請求につき判断する。

上叙認定の事実によれば、本件地上権の原始取得者は亀山正男であり、原告は亀山からこれを譲り受けたのであるから、原告の登記請求はいわゆる中間省略の登記のひとつの場合に当るけれども、原告の主張によれば、法定地上権である本件地上権が設定される根拠となった本件土地上の本件建物について、同時に、右亀山よりその所有権を譲り受け、かつ亀山との間で建物所有権移転登記手続を完了したと言うのであり、この事実は登記手続完了の点は当事者間に争いなく、所有権譲渡の点は前叙認定のとおりであるから、原告は本件地上権につき、原始取得者たる亀山に代位して、設定登記義務者たる被告に対し、一旦、亀山のために地上権設定の登記をすることを求めるという迂遠な方法を取る必要はなく、直接自己のために設定登記手続を求めることができると解する。

しかして、地上権設定登記の登記事項のうち、目的は木造建物所有のためであり、存続期間は昭和二九年五月一日から三〇年間であることは、上叙により明らかであるから、被告に対し、右事項を内容とする本件地上権設定登記手続を求める原告の請求も認容することができる。

七、以上の判断に従い、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡成人)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例